"Deception" と "Perception"

「手品を練習してます。」と言うと、皆さん驚かれます。手先を使う模型や楽器は老化防止に良いと言われますが...(笑)James Randi と言う元手品師の心理学教授が書いた本の影響です。

Randi氏は、Deception と Perception についての専門家で、James Randi Educational Foundationを設立し、科学的な態度(目で)物を見る事を啓蒙しています。 Deceptionは兵器の迷彩や情報作戦にも関係している主題で以前から興味をもっていました。第二次世界大戦中、ノルマンディーではなくカレーに上陸すると思い込ませるため連合軍が行った数々のトリックなど有名ですね。また北アフリカからシシリーに上陸する前に行った、英国パイロットの遺体に上陸地点を記したニセの機密書類を持たせて海に流す(Operation Mince Meat)など、ほとんど「スパイ大作戦」の世界です。私が覚えた手品は他愛のないものですが、人間の感覚の無防備さや、思い込みが想像以上に強力であるかを確認するのは驚きです。 またPerceptionは人種差別等あらゆる偏見の根源でもあるので大変興味深い主題だと思います。

氏の書く本は寧ろ犯罪調査報告で、個々のケースがどう「でっち上げ&インチキ」であるかを解剖し、実証して行きます。私は数多くあるUFOや心霊現象のレポートには昔から懐疑的なほうでしたので、一遍でこの人のファンになりました。 と言ってもJames Randi氏は単なる懐疑主義者ではありません。未知の事を推論から肯定するのも否定するのも等しく非科学的ですから例えば「地球外知的生命の存在の可能性」といった大きなテーマについて予断する愚は犯しません。私は個々のケースから騙されてしまう側の心理、大衆心理(の弱さ)のほうに大いに興味を引かれました。ここでも「騙す側は全部を説明しなくとも、騙される側が勝手に結論を導いてしまう」〜そんな印象を受けました。希望的観測、ご都合主義的理論など、我々誰もが弱さとして持っている部分ですが、先入観を排して事実をクールに見つめることの難しさを感じます。最近の「零戦の色〜飴色論争」を思い出して自分を戒める気になりました。

J. Randi氏のこの分野においての調査は既に35年のキャリアがあり著書も数多くあります。活動の背景には60年代〜70年代にベトナム戦争の反動からヒッピー文化が台頭、多くのアメリカ人が精神主義に傾倒した結果 、数多くのエセ宗教、スピリチュアリズムが出現し詐欺が横行した経緯があります。彼の報告書を読むと60年代〜70年代に出現した数多くのインチキ、デッチアゲ超自然現象、ESPの正体は全く幼稚なものがほとんどで驚いてしまいます。

その中に有名なジェミニ7号が撮影したUFOの写 真もありました。地球を背景に撮影された2つの白い物体の正体は船内の照明がガラスに写 ったもので、オリジナルを見れば誰でも分かりますが、UFO説の出版にはわざわざエアブラシで修正が加えられています。

また1948年ケンタッキー州で起きた有名なUFOの事件("Mantell" case)についても詳しいレポートがありましたが、謎の飛行物体を追跡中に墜落した(空中分解ではなく)空軍の戦闘機(ジェット機ではなくF-51マスタング)は、酸素吸入機の装備無しの空輸中の機体であったため高空でパイロットがブラック・アウトを起こし墜落したのが真相でした。パイロットが追跡飛行していた(と思い込んだ)ものは遥か高空にあった海軍のSkyhookプロジェクト。これは当時「気象気球」と公表されましたが実は冷戦時のスパイ気球(Skyhook Balloon)の一つで、当時の航空機では決して上がることの出来ない高度にありました。複数の僚機は一部始終を帰還してから報告しており、なんと「気球のようであった」との証言もあり、結局この墜落には何の謎もありませんでした。

高校生の頃読んで傾倒した「未来の記憶」のフォン・デニケンもこの本のなかで、理論の弱さを徹底的に指摘されています。デニケンの本も創作ならば本当に面 白い作品ですが、やはり事実と混同することは許されないと思います。

J. Randi氏の本を読んで初めて知りましたが、真面目なSFフィクションを書くよりも、怪しげなノンフィクションを書いたほうが商売として遥かに儲かるんですね。「バミューダ・トライアングルの謎」のベルリッツ等、「巨万の富を築いた」といって過言でないケースが記されていましたが、メディアや出版者の金儲け主義、センセーショナリズム、夢を見たい大衆の心理に助けられ、嘘が事実として増長して行く様は、プロパガンダ、政治的扇動、1930年代ドイツでのナチズムの台頭を引き合いに出すまでもなく恐ろしいものを感じます。

同じ危機は科学に限らず何時の時代にも潜んでいます。昨今、アメリカでは一大コーポレーションによる企業の吸収、市場の独占が益々進行しており、TV、新聞等メディアが一部のグループの人間に私物化されている事実を考えると、完全に独立した情報の入手経路の確保と情報処理の精度の高さが一層求められていくのだと思います。今こそどの時代よりも、Cold Hard Factsが必要とされているのだと感じました。

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