「脱走一万里」

長年もう一度見たいと捜していたイギリス映画 「The one that got away」、邦題「脱走ー万里」を遂に最近見ることが出来ました。この映画、1957年に作られた白黒映画で私は子供の頃一度見たきりでした。バトル・オブ・ブリテンのメッサーシュミットME-109のエース、フランツ・ヴォン・ウェラの脱走を描いたノンフィクションで、イギリスに不時着し捕虜となったウェラがイギリスの収容所から何度も脱走を試み、遂にはカナダの捕虜収容所から当時中立国だった合衆国へ脱走を果たすまでの実話を描いたものです。ウェラ(ドイツ流に読めばヴェラ)を演じるのは「飛べフェニックス」や「遠すぎた橋」などでお馴染みのドイツ俳優ハーディー・クリューガーです。実に30年ぶりにやっと見ることが出来ましたが記憶のなかで美化しているのでは?という予想に反して実に良くできた映画でした。ウェラの不時着した愛機の写真(実機)は数多く出版されており、バトル・オブ・ブリテン当時の109マーキングの最も有名なものとなりました。この映画冒頭に出てくるウェラのMeー109Eのモックアップも良くできていて(風防が逆に開く以外^_^)JG3のエンブレムも描かれています。これが実に印象的で私も子供の頃初めて作ったMe-109の模型には迷わずJG3のエンブレムを入れました。

他に史実どおりハリケーンMk.IIの実機が映画に登場します。資料によると映画の製作者は当初すべてのシーンを実際に起きた場所で撮影しようと試みたそうです。これだけでもこの映画のマニアックさが分かろうというもの。またこの題材となった実話そのものがスゴくて一度はほんとうに不時着したRAFオランダ人パイロットを装いハリケーンMk.IIを奪って飛びたつ寸前までいったそうです。手持ちの資料にはこの映画に描かれていないさらに映画向きのエピソードもあったりしてもう一度ドイツかイギリスでリメイクしてもいいのでは?と思ってしまいます。アメリカの映画業界はユダヤ人が牛耳っているのでこの手のものはダメですが、こちらでなかなか見れなかったのも遠からずこれが理由だと思います。

ウェラがドイツに帰国後書いた自叙伝があるそうなので今度これを捜してみようと思いますが映画でハッピーエンドとなっている合衆国に逃れてからも実は大変だったようです。1941年当時公式には中立でもアメリカはイギリスへの物資援助を始めており身柄をカナダに引き渡される可能性が大だったのです。結局ドイツ領事館の手引きでこっそりメキシコ、パナマ、ブラジル、スペイン、イタリアを経由しドイツに逃げるようにして帰ったようです。自叙伝を読んだ人の話ではニューメキシコ州からメキシコ国境を超える際も列車から飛び降り季節労働者の群れに紛れたりと、さらに映画一本分ぐらいの脱走劇は続いたようです。手持ちの資料によるとウェラはカナダから脱走した3人目のドイツ捕虜でしたが一人目は日本、ソ連経由でドイツに帰国。2人目はカナダに引き渡されています。しかしこの強運のウェラも帰国後ほどなく戦線に復帰し、ある出撃で不時着水を僚機に目撃されたのを最後に消息をたちました。ちなみにウェラを演じた俳優ハーディー・クリューガーも終戦間近ヒトラーユーゲントの一員として実戦に参加、彼自身アメリカ軍の捕虜になった経験があるそうです。

11/29 ●目次に戻る

 


        ●ご案内のページへ戻る