「色とスケール・エフェクト」

スケール・エフェクトという観点から模型に再現する実機などの色を考えた場合、縮尺によって変化せざるを得ません。単純にもし実機と同じ塗料を1/48スケールの模型に塗ったらどうなるか?〜 実機よりはるかに暗い色に見えてしまうでしょう。その色を1/144 の模型に塗ったら更に暗く見えてしまいトータルな実機の印象は完全に失われてしまうでしょう。実機の場合、色はその面積が大きければ大きいほど多くの光りを受け明るく見えるからです。自分の自動車を塗り変えた経験のある方は分かると思いますが、メーカーストックにない色を選ぶ場合小さなカラーチップでは、よほど注意しないとこのスケールエフェクトに惑わされてしまいます。

原則的に遠くにあるものの色は実際の色より明るく見え、同時にどんなにケバケバしい色に塗られていてもいくばくか霞んで見える〜すなわち彩度(鮮やかさ)が低く見えるという事実はモデラーには広く知られていますが、意外にこのスケールエフェクトは実践されていないように思います。リサーチにより判明した実機の色を縮尺された模型に直接塗るのも、もちろん模型の一つの在り方でしょうが、実機の復元でないかぎり色も縮尺の中で考えるべきだと私は思います。模型の場合、スケールエフェクトは全体塗装色だけでなくデカールになっているマーキング等の色も考慮しなければなりません。そうなるとデカールの自作またはマーキングの手書きが必要になり、これがスケールエフェクトからモデラーを遠ざけている理由の一つかも知れません。私がマーキングを手書きする理由の一つがこのスケールエフェクトですが、仮にデカールのようにキッチリ書けなくともグッと落ち着いた仕上がりになるので、私はやる価値が充分あると思っています。特に通常デカールでは国籍マークなどケバケバしい原色で印刷されている場合がほとんどなので、彩度を落とすだけで効果はバツグンです。このアプローチ、大げさに絵画になぞらえるならば〜ファジーながら空気や光のリアリティーを追及する「印象派」〜と言ったところでしょうか。実際に「印象派」の画家にあやかり黒を一切使用せず、代わりに濃いブルーグレー等を使用してみると圧縮された空気がそこにあるような〜意外な効果があります。

模型の縮尺と色のスケール・エフェクトについて、英国の航空史研究家でモデラーでもあるイアン・ハントレー氏が雑誌スケールエアクラフトモデリング誌(1990年11月号)に大変興味深いデータを発表しているのでご紹介します。

縮尺率の違う模型でも鑑賞者は模型を一定の距離から眺めるので1/144の小さな模型を見るということは1/48の模型を見ている時に比べ実機を更に遠くから眺めているということになります。ハントレー氏はイギリスの赤い郵便ポスト等を対象物に、小さなカラーチップを用意して野外で目にみえる色の変化を測定しグラフに纏めています。実機の色も真新しい塗装から使い込まれた機体の退色まで幅がありますが、それらを含め「見かけの色は対象物との距離によって変化する」、すなわち「模型の色は縮尺によって変化する」という事実を確認することは非常に重要だと思います。氏が発表した細かいデータは割愛しますが、模型の場合、大体1/24スケールで5%、1/32スケールで10%、1/48スケールで15%、1/72スケールで20%、1/144スケールで30% 程度明度が上がるという結果が出ていますので、色を混ぜる時にこれを覚えておくだけでも充分でしょう。

考えてみれば画家は野外で油絵を描く際にパレット上でこれらを直感的に行う訳で、絵で遠くにある建物は画面上に小さく描かれ、的確に調色された色はその建物のある位置(画家あるいは鑑賞者との距離)だけでなく、その建物の大きさを伝えることすら可能です。多くのベテラン・モデラーが瓶からそのままの色を使わずに自分で調色するのを薦める理由の一つが、このスケール・エフェクトです。

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